1987年

「かにしゅうまい、食べ忘れました。こんどおねがいします」


「回ってますよこのクルマ」とかんちゃん。
「まこさんあぶない」と高田くん。

  猛吹雪の中、北陸道を越前ガニ食いたさに飛ばし、あぁやっとの思いで福井にたどりついたと思った瞬間。あぁ、あわれアイスバーンをカニのように横走りするクルマ。もちろん対向車もくる、あかん。くるくる回って、ドン。と歩道と車道の間の雪溜まりにぶつかって止まった。カニ危機一髪。


「うまいことよけますねぇ福井の人は」
「さすが雪国仕様、みんなアイスバーンをすいすい行く」とかんちゃんと高田はへんな感心をしている。クルマに雪はボクにとっては鬼門、事故がよぎる、、あぁ事故らんでよかった。ひと安心。田舎もんの神戸ざいごナンバーやさかい、許してねと。なんだか、食欲がなくなってしもうた。


  ほんでぇ、やっとの思いで到着した「ペンション田中」。ここのお嬢さんが、佐々木ゼミ出身なのだ。2年続けてお世話になる。今回はなんと、カニだけでなく越前グルメツアー。越前ガニだけでも充分なくらいなのに、越前手打ちそばに元祖秋吉の焼き鳥。運転手以外はえらい元気になってきた。

  ごあいさつもほどほどに、越前ガニの名店「よしむら」さんへ。獲れたばかりのカニは、カニすきにするよりさっとスープにくぐらせてカニしゃぶがおいしい。一番はカニの香ばしいかほりが食欲を刺激する、焼きガニ。 これが一番と教えてくれたのはカニ船の船長さん。カニの甲羅はおはだにもええんやと。



「なんで松葉ガニが高いか、わかる。船に乗って一緒に獲ればわかるよ」と船に乗せてくれた船長だ。冬場の日本海側の天気は変わりやすい、上下する揺れる船。舟底一枚の下は死の世界だ。そんな中で漁はおこなわれた。 「生くうてみる」と折れた松葉の手をくれる。「うまいやろぅ。だけど食べ過ぎるとあたるで」とも。


「安いだけの松葉ガニって、偽もんやで。こんな危険な目して獲って千円とか、そんな値段であるわけがない。本ズワイガニでないのを北海道なんかは松葉と呼びよる。見分けがつきにくいのも仕方ないけど、味が全然ちがう。ロシアの冷凍もんならなおさらや」と。「獲って良い期間がある松葉ガニが夏や秋に食べられる方がおかしい。今のひとは売り手の言いなりや、眼力ないからだまされよる」とも。


  松葉ガニはブランド名で、越前ガニも間人ガニも境港ガニも、みんなオスの本ズワイガニ。本ズワイガニには間違いなくて、水揚げされた港のブランド名がついたりする。本とつくからには、つかないズワイガニも存在するからややこしい。松葉と越前がちがうカニではない。メスはちいさくて、一杯ひとり分くらいの大きさ。当地では「セコガニ」と言って、冬場の食卓には必ずのぼる。今では死語だが「庶民の味」というやつだ。松葉ガニを食べられることが、晴れの日ではなくなったからだろう。


  ほんまもん越前ガニは高価だし、友人と語らいながら食べたい。せっかくおいしい「越前ガニ」を食べるのだから。ただ、この語らうというのが、カニの場合困るのだが。みんな手のほうが忙しい。 「かんちゃんおもろいこと言うて」「そうやってるうちに奥村さんカニみそ食べるんちゃうん」「じゃぁ、まこさん」「なんで越前ガニ言うか知ってる?」と前出のうんちくを喋っているうちに、ほんとにカニみそがなくなった。


「雅美はこんなおいしいカニ、いつも食べてるん」とかんちゃん。お嬢さんは無言、食べてる。
「ええなぁ。おいしいもん食べられて」彼は同じようなことを尾道のツアーでもひとりごとのようにつぶやいていた。
「奥村さんなにしとん?さっきから甲羅ないと思てたら、甲羅酒たのんでまっせ。ほんま旨いものには行動力あるねぇ、女の子にその行動力があればねぇ」
「まこさんそんなこと言うてたら、今度はカニの手なくなります」と高田くん。


「もうあらへんやん」
「まこさん、猛吹雪の運転で疲れたって。食欲ないんでしょ」
「べっちょない、食欲ないけどおいしいもんは別腹や」と別腹を満たすために、秋吉の焼き鳥を食べに行く。チエーン展開しているので関西にも店舗はあるが、本場は安くてもっとおいしいと聞いていた。滑る雪道を歩くあるく。
「はよ行くで」
「まこさんなんも食べてへんから、元気やけど、僕ら越前ガニで満腹やさかい」
「だから腹すかすんやぁ」
「まこさんまた滑るで、クルマみたいに」



  屋台のような雰囲気のええお店だった。
「ぼくはけば、はつ、だんご」すぐ、串にさして出てきた。うまい。「手羽先」と書いて「けばさき」とよんだり「けば」や「てば」だったりと、呼び名は場所でちがう。それを「こうあるべきだ」式お役人思考の頭が固い人は「てばさきや」と。「馬鹿やなぁ」と思う、言葉は通 じたらええんやし、地域によって違って当りまえ。

  本ズワイガニがそうや。「せこ」「たいざ」なんて言っても関東人には、通 じない。それでええんや。うまいもんはその名を知ってる人だけが食べればええ。でないと、トリやカニに失礼やん。それがなにかわからんのに食べられてもてかわいそうやん。
つづく→

 
 

 


「おいしいかにカニ第二弾」

全てたいらげてご満悦のみなさん

「アイスバーンでっせ、奥村さんこけますよ」

「お嬢さん、つぎナニたべましょ」

「おいしいとめがねが落ちるんですよ」@秋吉本店



「ここ奥村旅館ちゃいますよ、女の子のうちでっせ、まこさん」
「そやけどくつろいでしまうボクたち」




「福井の新事実はっけん」「かんちゃんの話しもきいたらな」





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