13期生 阪口正己
 

金融について

  銀行員を20年以上やっておりますと、日本の銀行の惨めな状態に悲しくなるこのご 時世ですが、私なりにコメントいたしますと、以下の通りです。

  日本政府は戦後政策的に、産業を育成するため銀行に資金をうまく回転させることを 命じてきました。銀行に優遇措置を与えつつ、政府の言うとおりの仕事をするように 命じられてきたわけです。

  護送船団方式と呼ばれますが、一番弱い信用金庫、信用組 合などの金融機関でも収益のでるよう政策的に守られてきたわけです。 そのおかげで都市銀行などの大手の銀行は、多少の努力はするものの、自然に収益が 上がるわけで、外では世界的に激烈な金融戦争が海外で起こっているにもかかわら ず、金融鎖国状態の日本で、のんびりと暮らしていたわけであります。

  銀行は、お上からの銀行法と山ほどある通達にがんじがらめの状態で、実際には何も できない、させてももらえない、状態にあったわけですが。 この護送船団方式も、景気がよく銀行が健全な時期には、誰も文句を言わなかった。
  しかし、バブル崩壊とともに様相が一変してきた。 日本中に倒産する会社がひしめき、これだけ景気が悪くなると、どんなに体力があっ たはずの銀行もどうしようもなくなった。
  従来なら、政府が何とかしてくれた。とこ ろが残念ながら、今回は政府も火達磨で、借金づけの状態。もう護送船団はやめまし たので、各銀行は自分で経営をするようにとのお達し。自分で経営をするようにとは 言いつつ、自己査定とかいう金融庁の検査で、こんな危ない会社に貸すなといいつ つ、貸しはがしも禁止。 非常に中途半端な状態で、ジリ貧状態なのが現状なのかも知れません。
  とかく世間から厳しいご批判のある銀行ですが、このような政府の金融行政の壁で ニッチもサッチモいかなくなってきたわけで、非常に言い訳がましいのですが、銀行 だけが悪いんじゃない、ということを少しでも理解していただければ幸いです。

  私の香港での仕事は、約10年くらい前に買収した米国系銀行の香港拠点の運営管理で したが、いつも問題になるのが、日本の金融行政で、香港での金融常識が理解され ず、まともな海外拠点運営ができなかったわけです。
  当然、競争の激烈な香港で生き 残ることも不可能なわけで、海外撤退となったわけです。日本の官僚は非常に優秀で して、特に大蔵省など東大出の超エリート集団は、官僚の権力を守るために、すばら しい活躍をしているので、 民間企業が、それはおかしいと言っても、それを跳ね除けるだけの能力を十分にもっ ているのです。
  小泉総理がよく言っている抵抗勢力は、世の中のいたるところにいるわけで、官僚だ けでなく、民間企業にも多くいるわけで、そういう人の特徴は、既得権益を守ること を最重要に考えていることにあります。

  これは生活防衛本能に基づくもので、持たざ る人が、批判すべきことではないのかも知れませんが、この抵抗勢力の言うままに進 めていくと、日本は本当に崩壊していくのかも知れません。 銀行もこの抵抗勢力の仲間に入っているのでしょうが、これもそう簡単には解決でき ない問題でして、例えば、今銀行もすべて自由競争で、国は何も言わないと決めたと すると、大変な数の銀行が倒産して、皆さんの大切なお金は、消えてしまいます。消 えないようにするためには、税金で処理するしかなく、これまた、国民の負担です。
  当然賢明な方は、海外の金融機関にお金を預けるでしょう。そうすると日本国内にお 金がなくなり、日本の産業もお金を借りられず、どんどん倒産していくでしょう。 最後には、日本人が日本を脱出し、どこか海外で暮らさないといけないかも知れませ ん。

  日本は米国の植民地状態になっているかも知れません。 こういうことにならないように、どうするかが問題でして、恐らく誰もこの問題の回 答をもっていないと思うのですが、私が、香港で経験したことから申しますと、政府 は、小さな国家であるべきで、最低限、治安維持のための警察、社会福祉等は必要で あるが、その他のものは極力縮小し、税金を下げる、また、多くの規制を撤廃し、自 由に競争させる、 これ以外に手はないのではと思うのです。
  中国でこれだけ安い商品が製造されると、日本の製造業は生きていけない、というの は当たり前のことで、日本が付加価値のあるものを作れない以上、産業が淘汰されて いくわけです。儲けてもいないのに会社を経営していると赤字になり、倒産するわけ です。 銀行も倒産、統合、合併といろいろな形で、人員削減をしている途上ですが、その努 力をはるかに超えるスピードで、産業の空洞化も進んでいるわけです。

  世界的に見れば、日本人の所得は高すぎるのでしょう。この程度の仕事しかしていな いのに、この年収があるのが間違っているのかも知れません。 例えば、日本の町工場で働く人が、年収400万円あるとすると、同じ仕事を中国の広 州でやっている中国人は、40万円の年収でやるわけで、日本人が10分の1の給与に下 げない限り、競争できないわけなのですが、実際には、下げずに会社の経営を悪く し、銀行に借金を返さず、最後に日本国の借金となって日本を崩壊へ導いているわけ です。
  そういう意味では、もっと悪いのは公務員の整理の立ち遅れであり、税金のアップ、 国債の増大という形に現れているのです。 公務員、中でも学校の先生の改革は重要だと思います。子供に将来社会に出て、生き 抜くための知恵、知識を与えることが、学校の先生の仕事としますと、今のように、 社会のことがわからない、また、社会生活からドロップアウトした人たちが、先生だ と言って生徒に念仏のような訳の分からないことを教える。
  生徒の方も、それを見抜 いて無駄なことはしないように、勉強をしなくなってきている。これは、大変な税金 の無駄使いでして、何とかする必要があると思われます。社会人経験のある人格者を もっと先生に採用し、何もできないので、先生をやっている方には、今一度、一般 企 業でいま何が求められているのか、勉強するために、実社会にでて頂く必要があるの ではと思われます。

  人材の流動化なくして、社会の活性化もあり得ないわけでして、これは日本株式会社 の経営者(政治家)の力量が試されているものと思われます。 いま、心ある方が、日本を変えようと努力されているのでが、抵抗勢力の前に、なか なか前に進めないというのが現状のようです。
  銀行という抵抗勢力の中にいる、私がこんなことを白状するのも、おかしな話なので ありますが、微力ではありますが、日本の銀行をまともにしようと取り組んでいるの であります。 銀行も公務員と同じで、一度就職すると定年までという考えが大勢を占めており、学 校の先生と似た問題が起こるわけです。
  外国の銀行員と話をして、彼らのWHY?に 対して、納得のいく説明をできる日本の銀行を作ることが、銀行の構造改革と思うの ですが、すぐに日本は特殊だからと議論から逃げて改革を行わない。

 こういう抵抗 勢力を駆逐するには、今の段階では、政治家が本気で構造改革を進めるのが一番の早 道と思われますが、その政治家を選ぶ国民も、まともな政治家を選ぶ力量 が試されて いるのでしょう。
  また日本の構造改革は、イコール、大量の失業者の発生という状態ですので、話は簡 単でないのですが、少なくとも転職しやすい環境づくり程度は必要と思われます。 外国為替、マネーについて 私は、銀行員と言っても、従来主に外国為替をやっておりましたので、それについて ひとこと触れますが、香港ではいろいろな通貨を自由にやり取りできます。
  1998年当時、アジア通貨危機というのがありまして、香港もジョージ・ソロスなどの ヘッジ・ファンドの餌食になりかけたわけですが、その当時、1USドル=7.8香港ド ルに固定されたペッグ・システムが崩壊する危機にあったわけです。

  崩壊すると1U Sドル=11香港ドル程度まで下落すると言われておりました。約30%価値が下がるわ けです。 当時私を含め、多くの人がUSドル、ユーロ等の他国通 貨に両替をしておりました。 おかげで香港ドル1ヶ月ものの定期預金金利が10%を超え、普通 預金でさえ6%の金利 という高金利時代でした。
  当時円も1USドル145円程度まで下落しておりましたの で、香港ドルの防衛など不可能と考えていたわけですが、どうやらその後ろに控えて いた中国がアメリカに圧力をかけることに成功し、香港ドルは守られました。

  私は、香港ドルから逃げた分、高金利の恩恵に預かり損ねたわけで、資金運用という 面では失敗でありました。 マネーは世界を駆け巡っております。政治情勢に大きく左右されます。香港人が新聞 好きなのも、自分の資産運用をまじめに考えているからなのでしょう。 残念ながら、日本では外国為替を駆使して資産運用を考えている人は、まだまだ少な いようですが。

  銀行の手数料も高いし、手軽に使える他通貨口座も普及していない。 日本は、まだまだ金融発展途上国というしかないと思います。 外国為替は、情報が命でして、市場がいま何を考えているか、を読めれば、かなり確 実に、収益の上がる世界です。これは心理学と共通しています。この情報の多くが、 英語でやり取りされており、日本人には不利にできているのですが、一般 人でも、過 去の為替動向と世界情勢がある程度分かっておれば、ゼロ金利から抜け出すことぐら いは可能と思われます。
  もちろん、元本割れのリスクもありますが、これからは、自己リスクの時代ですの で、銀行員のいうことより、自分で考えて行動することをお勧めします。 ストレスについて 最近、ストレスが社会問題化しておりますが、ここでも香港人を見習いたいと思うの です。基本的に小さいことにこだわらないところが、いいのではないかと思います。 彼らの口癖は、モウマンタイ・無問題でして、いつも「何の問題もない」と言うの です。

  日本人の基準からすると大問題でも、彼らは気にしないわけで、ストレスがたまらな い訳です。 日本の銀行の手続きは、非常に細かく取り決めがあり、少しでも異なる扱いをするこ とは、許されないわけですが、彼らはそんなことをあまり気にせず、最終的に目的を 達成できればいいじゃないか、という考えで、途中の細かい手続きもすぐとばすので す。
  私も当初は、銀行所定の手続きを守っていないことにイライラしていたわけですが、 彼らと話していて、ふと昔、出向していた某信用金庫での事務手続と同じことに気が ついたのです。
 
  銀行も大手になるほど、細かい手続きが決まっており、きちんとして いるわけですが、きちんとしすぎて、事務を非効率にしている面 もあることに気づい てきました。 彼らの方が、仕事の本質がわかっていて、楽に仕事をしていることに気づかされたわ けです。 平均的にみて、日本人のストレスは、生真面目さからきていると思います。
  香港人は、日本人の几帳面さはないので、仕事は雑に思われますが、実は効率を考 え、ストレスを貯めずに、仕事を進めていると思われました。 日本人は、年末になると忙しくしないと悪いという意識があり、どこでもざわざわし ているのですが、仕事を年越しにしてはいけない理由は何でしょうか。実は、几帳面 さから自分を追い込みストレスをため、病気になっているのではないでしょうか。 日本中がこういう国民性なので、日本にいるとあまり感じないのですが、海外から見 るとこの几帳面さは、異常なのです。

  もちろん、この几帳面さが、日本の工業製品の品質を支えてきた面 もあるわけです が、病気になるのも困りものです。 香港で家電製品を買うと50%以上の確率で、新品なのに何かトラブルがあります。い つも文句を言わないといけないので、面倒なのですが、逆に、営業店員も大雑把なの で、こちらのミスで壊した家電製品を新品にしてくれるなど、大雑把さが助かること もよくありました。
  日本人ももう少し、アバウトになり、気楽に明るく生活できないものかと考えるので すが、現実はそう簡単ではないようです。 米国人の好きなTake it easy など、日本では不謹慎と写るようです。自分で自分の 首を絞めているのかも知れません。


あとがき

  最後に、不景気日本、ろくなことのない日本という空気の中で、いみじくも、佐々木 先生の教えをうけた人は、賢明な生活を送りたいと思うわけです。 世界中では、いま飢餓に苦しんでいる国などがいくらでもあり、全地球的にみれば、 この日本も極めて恵まれた環境にあるわけでして、不平不満を言うのは簡単ですが、 その前に、平和な国で生活できていることを感謝すべきなのでしょう。 その上で、自分に何ができるのか、を考える必要があるのでは、と偉そうなことを言 いつつ、自戒しているわけであります。  

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佐々木ゼミ13期生 阪口正己 @2003.3がぼるへの寄稿文

 
 

 

 
 
 
 

 

 



©Paradiso co.,ltd.2009  大切な佐々木ゼミの歴史です、取り扱いにはご注意を。無断転載を禁じます。 2010年4月5日